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短編

悪魔の贈り物

息子が拾った謎のプレゼントをきっかけに、家庭にじわじわと奇妙な影が忍び寄る。

Genre
ホラー
Series
単発
#プレゼント#日常#子ども

「ママ、これ見て! サンタさんがくれたんだよ!」

夕暮れ時、保育園から帰ってきた息子の大樹(たいき)が、満面の笑みで手に持っていたのは、赤い包装紙に金色のリボンがついた小さな箱だった。クリスマスまではまだ三週間以上ある。誰かが落とした物かと思い、「どこで見つけたの?」と聞くと、大樹は園の裏手にある植え込みのあたりを指さした。

「お迎えのときにはなかったよね?」

「さっき、ひとりで先に行ってたら、そこにポンって置いてあったの!」

大樹の興奮に水を差すのも可哀想で、とりあえず箱を開けてみることにした。中には、小さな黒い人形が入っていた。ぬいぐるみというより、細長い手足と異様に大きな頭を持つ、どこか民族的な雰囲気のある不気味な人形だった。

「へんな顔だね」

そう言うと、大樹は「でもかわいいよ」と抱きしめた。その日から、彼はその人形を「くろちゃん」と呼んで、どこへ行くにも連れて歩くようになった。


最初に異変を感じたのは三日後の夜だった。

深夜二時頃、リビングの電気が勝手についた。誰かがいるのかと思い、恐る恐る部屋を覗くと、テレビの前に座っているのは大樹だった。くろちゃんを膝に乗せて、虚ろな目で砂嵐の画面を見つめていた。

「大樹、どうしたの? こんな時間に……」

声をかけると、彼は振り向かずにぽつりと呟いた。

「くろちゃんが、ここに来たいって」

その時は夢遊病かと思い、寝室へ連れ戻した。だが、それ以降、夜ごとに彼はリビングへと向かい、くろちゃんと何かを「見ている」ようだった。


一週間ほど経ったある日、保育園から電話があった。

「大樹くんが……ちょっと変なんです。お昼寝の時間、独り言をずっと言っていて……まるで、誰かと喧嘩しているみたいで」

迎えに行くと、先生が申し訳なさそうに付け加えた。

「くろちゃん……という人形の名前を何度も呼んでいて。あれ、持ち込んでいいのは今日までにしてくださいね」

帰り道、大樹に問いただすと、彼は珍しく黙り込んだ。

「くろちゃん、ママのこと、あんまり好きじゃないみたい」

その言葉に背筋が凍った。まるで、その人形に意志があるようだった。


家に戻ると、思い切って人形を処分することにした。夜、大樹が寝静まった後、くろちゃんを紙袋に入れて、近くのごみ集積所へ運んだ。

だが翌朝、くろちゃんは、いつものように大樹の枕元に戻っていた。

袋の口をしばっていたはずなのに、破られた様子はない。夫に聞いても、知らないと言う。ゾッとしたが、気味が悪いとだけ言って、もう一度捨てた。

次の日も、またその次の日も、くろちゃんは戻ってきた。

そして、ある夜。私は夢を見た。

暗い森の中で、大樹が何かと話していた。声は聞こえない。ただ、その相手の姿だけが、ぼんやりと浮かんでいた。あの黒い人形……いや、くろちゃんは、もう人形の形をしていなかった。人間の子どもほどの大きさに膨らみ、無数の目が身体中に開いていた。

目が合った。

その瞬間、私は息が詰まって目を覚ました。


翌朝、大樹が私に言った。

「くろちゃん、ママの夢の中に行ったって」

「なんでそんなこと知ってるの?」

「くろちゃんが、教えてくれた。ママのこと、もうすぐ好きになるって」

その笑顔が、普段の息子のものに見えなかった。

私はふと、カレンダーに目をやった。

あの日——あの赤い箱を拾ってから、ちょうど十三日目だった。

そして今日は——十三日の金曜日。

窓の外には、誰もいないはずの庭に、赤い箱が、またひとつ置かれていた。金色のリボンが、風もないのにゆらゆらと揺れていた。