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短編

恋の予言

謎の手紙に導かれるように始まった恋。それは最初から“仕組まれていた”ものだった。

Genre
ホラー
Series
単発
#恋愛#呪い#手紙

「この手紙を読んだあなたは、三日後、運命の人と出会います。けれど、絶対に名前を聞いてはいけません

放課後、下駄箱に入っていた一通の封筒。
筆跡は丸みを帯びた可愛らしい字。けれど、どこか不自然なほど丁寧で、ぴったりと揃っていた。

悪戯だと思った。けれど、不思議と捨てられなかった。

三日後――予言は当たった。

図書室で本を探しているとき、棚の向こうから落ちてきた一冊の小説。
拾い上げた手が、誰かの手と触れた。
顔を上げると、そこにいたのは知らない女子だった。

髪は長く、どこか影のある表情。
目が合った瞬間、何かが胸の奥で弾けた気がした。

「……ありがとう」

それだけ言って、彼女は本を抱えて去っていった。

次の日も、またその次の日も、図書室で偶然出会った。

話すようになり、少しずつ距離が縮まっていく。
名前を聞こうとしても、彼女は笑ってごまかした。

そしてふと、あの手紙の一文が頭をよぎる。

絶対に名前を聞いてはいけません

なんとなく、それを破ってはいけない気がした。

彼女との関係は、ゆっくりと、でも確実に深まっていった。

だけど、奇妙なことも増えていった。

彼女と会った日は、必ず誰かが怪我をした。
廊下で転倒、体育で骨折、自転車事故。
偶然とは思えないほど、近しい誰かが傷ついていた。

ある日、彼女が言った。

「ねえ、私のこと……好き?」

「……うん」

そう答えると、彼女はとても嬉しそうに笑った。

「じゃあ、お願い。これからも、私だけ見て」

その夜、再び手紙が届いた。

今度は赤い封筒だった。

「予言は完了しました。次に名前を聞いたとき、あなたは“永遠”を手に入れます」

不安になり、彼女のことを調べようとした。

けれど、どこにも記録がなかった。

出席簿、写真、クラス名簿――彼女の名前はどこにもない。

なのに、確かに毎日、図書室で会っている。

そして、今日。僕はとうとう言ってしまった。

「ねえ……名前、教えてよ」

彼女は少し黙って、それから静かに言った。

「……ありがとう」

その瞬間、頭の中で何かがちぎれるような音がした。

目の前の景色がゆがみ、図書室が闇に包まれる。

彼女の声が響く。

「やっと、わたしを“ここ”から出してくれたね」

最後に見た彼女の顔は、優しくて、怖かった。

***

翌日、僕は“失踪”したことになっていた。

教室の誰も僕を覚えていなかった。
家族も、先生も、記録すら残っていない。

でも、図書室の奥の棚に、赤い封筒がひとつ。

それを開いた誰かがまた、新しい“恋”を始めるのだろう。

今度は、僕が“予言”の送り主として。