短編
リセット衝動
引きこもりの青年がのめり込んだゲームの中で、“現実”が少しずつ壊れていく。
陽太は大学を中退して以来、ほとんど外に出ていなかった。
生活の中心は、ゲームだった。特に、今ハマっている『Re:Code』というインディー系のシミュレーションRPGは、中毒性が高く、日々の孤独を忘れさせてくれた。
このゲームは、プレイヤーが「管理者」として仮想世界を運営し、登場人物たちの人生に介入するというもの。選択肢によって物語は大きく分岐し、失敗すればキャラクターが“壊れて”しまう。
陽太は、何度もリセットを繰り返して最良のエンディングを探した。
ある日、いつものように深夜3時。ゲームを起動すると、見慣れたスタート画面に、妙な違和感があった。
> Re:Code
> - Continue
> - Load
> - Reset(※現在選択不可)
> - 現実に干渉
最後の項目に、陽太は手を止めた。
こんな選択肢、あったか?
おかしいと思いながらも、「現実に干渉」を選ぶと、画面が一瞬フラッシュした。
次の瞬間、モニターに映っていたゲームのキャラクターたちが、一斉にこちらを見て言った。
「ねえ、どうして何度もやり直すの?」
その言葉に、陽太は息を飲んだ。
ゲームの中のNPCたちは、いつも彼の選択に従順だった。感情など持たない、ただのデータだと信じていた。なのに今、彼らは“怒って”いるように見える。
「私たちはお前の人形じゃない」
「何度殺されても、覚えてるよ」
電源を切ろうとしたが、PCがフリーズしていた。マウスもキーボードも反応しない。画面の中では、ゲームキャラたちがひとつずつ陽太の“過去の選択”を読み上げ始める。
「Aを裏切った」
「Bを見殺しにした」
「Cを愛すると言って、すぐにリセットした」
「……やめろ」
陽太は声を上げたが、誰にも届かない。
ふと背後で、誰かの気配がした。
振り向くと、部屋の隅に人影が立っていた。だが、目を凝らすまでもなくそれが“C”――ゲーム内で恋人ポジションだったキャラだとわかった。
黒髪に白いワンピース、首元にあの時プレゼントした赤いリボン。
彼女は、ゲームと全く同じ姿で、こちらを見ていた。
「現実も、リセットできると……思ってたの?」
陽太は叫んで逃げようとしたが、体が動かなかった。
PCのスピーカーから、別の声がした。ゲームの“ナビゲーター”の少女の声だ。
「プレイヤー陽太、リセット回数:213。現実からのログアウトを確認しました」
画面が真っ暗になり、数秒後に再び立ち上がると、そこにはゲームのスタート画面が表示されていた。
> Re:Code
> - New Player Detected
> - Would you like to create a new identity?
だが、どこかが違っていた。
画面の隅に、薄くこう表示されていた。
Previous Player: 陽太 ? Status: Deleted
そして今、あなたのPCにもこのゲームがインストールされていたとしたら――。
「Reset」を押すその手を、どうか慎重に。