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短編

色褪せない笑顔

古いアルバムに見つけた不気気味な笑顔が、時を超えて現代に迫ってくる。

Genre
ホラー
Series
単発
#写真#家族#呪い

大学を卒業し、一人暮らしを始めるために実家の荷物を整理していた時のことだ。押し入れの奥から、ずっしりと重い木箱が出てきた。開けてみると、中には古びたアルバムが何冊も詰まっていた。埃っぽい匂いが鼻をつく。

何気なく一番上のアルバムを手に取った。表紙には「昭和三十年代」と金文字で記されている。ページをめくると、セピア色の写真が目に飛び込んできた。知らない親戚たちの、少し硬い表情。結婚式、七五三、海水浴。どれも幸せそうなのに、どこか遠い世界の出来事のようだ。

一枚の写真で、ふと指が止まった。集合写真だ。法事か何かだろうか、黒い服を着た人々が並んでいる。その中心にいる、まだ幼い少女。他の誰もが沈んだ顔をしている中で、彼女だけが満面の笑みを浮かべていた。口角が不自然なほど吊り上がっている。その笑顔は、周囲の悲しみとは不釣り合いで、異様な存在感を放っていた。写真の隅に、インクで「早苗、七歳にて没」と書かれているのを見つけ、背筋がぞっとした。

気を取り直して、別のアルバムを開く。時代は少し下り、「昭和五十年代」。今度はカラー写真だ。見覚えのある叔父や叔母の若い頃の姿がある。その中に、一枚のスナップ写真があった。家族旅行だろうか、温泉旅館の浴衣を着て、数人が並んでいる。その中に、あの笑顔があった。今度は、叔父の隣に立つ見知らぬ女性だ。彼女もまた、口角を奇妙に引きつらせて笑っている。他の家族は皆、楽しそうに微笑んでいるのに。

嫌な予感がした。ページをめくる手が震える。平成、そして令和へ。アルバムが新しくなるにつれて、写真は鮮明になっていく。しかし、あの笑顔は消えない。七五三の写真で、千歳飴を持つ従兄弟の隣に。友人の結婚式で、ブーケを受け取った同僚の背後に。それはまるで呪いのように、写真から写真へと伝染していく。最初は遠縁の親戚だったのが、次第に血の近い者へと移り、確実に俺のいる現在へと近づいてきていた。

最後のアルバムは、俺が生まれてからのものだった。赤ん坊の俺を抱く母。入学式の俺と並ぶ父。その写真のどこかに、あの笑顔が紛れ込んでいるのではないか。恐怖に駆られ、俺は乱暴にページをめくった。そして、最後の一枚で息を呑んだ。

数年前に撮った家族写真だ。両親と俺、三人で並んでいる。父の肩の後ろ、ほんのわずかな隙間から、誰かがこちらを覗いていた。あの笑顔だ。早苗という少女と瓜二つの、色褪せない笑顔。

心臓が早鐘を打つ。俺はアルバムを突き放すように閉じ、箱に押し込んだ。もう見たくない。忘れよう。あれはただの偶然だ。そう自分に言い聞かせ、スマートフォンのカメラを起動した。気分転換に、SNSでも見ようと思ったのだ。

黒い画面に、自分の顔が映る。ひどい顔色だ。無理もない。
ふと、口元に違和感を覚えた。
画面の中の俺は、笑っていた。
口角が、ゆっくりと吊り上がっていく。
見たこともないほど、深く、歪んだ笑顔で。