短編
色褪せない笑顔
古道具屋で見つけた一枚の家族写真。そこに写る少年の不気味な笑顔が、男の日常を静かに蝕んでいく。
シャッターが下りた店の多い、寂れた商店街。その片隅にひっそりと佇む古道具屋に、俺はふらりと足を踏み入れた。埃っぽい匂いが鼻をつく。ガラクタ同然の品々が雑然と並ぶ中で、一枚の写真が目に留まった。
セピア色に変色した、古い家族写真だ。硬い表情の両親と、少し年の離れた姉弟。ごくありふれた記念写真のはずなのに、妙に心がざわついた。弟の、5歳くらいの男の子の表情が、あまりにも異質だったのだ。
唇が耳元まで裂けるのではないかと思うほど、大きく、不自然に歪められている。それが満面の笑みとしてそこにあった。他の家族が無表情なだけに、その笑顔だけが写真の中で浮き上がっているように見えた。まるで、別の写真から切り抜いて貼り付けたような違和感。
何かに引き寄せられるように、俺は数百円でその写真を手に入れた。
アパートに帰り、机の上に写真を立てかける。照明の下で見ると、男の子の笑顔はさらに不気味さを増した。目が合うたびに、その口角がさらに吊り上がったような錯覚に陥る。気のせいだ、疲れているんだ。そう自分に言い聞かせた。
しかし、その日から俺の日常は静かに侵食され始めた。
ふと目を向けたテレビ画面の反射に、あの笑顔を見た。電車の窓に映る自分の顔に、一瞬、あの少年が重なった。気のせいでは済まされないほど、それは頻繁に起こるようになった。夢にも見るようになった。暗闇の中、あの少年が、あの笑顔のまま、俺の名前を呼んでいる。
俺は次第に部屋に引きこもるようになった。ただひたすら、写真を見つめて過ごした。この笑顔は何なんだ?喜びか?苦痛か?それとも、もっと別の、俺の理解を超えた感情の表出なのか?写真の中の少年は、何も答えてはくれない。ただ、笑っているだけだ。
ある晩、どうしようもない衝動に駆られた。自分の顔を確かめなければならない。震える手でスマートフォンを掴み、インカメラを起動する。真っ暗な画面に、自分の間抜けな顔が浮かび上がった。
そして、無意識にシャッターを切っていた。
フラッシュの白い光が網膜を焼く。目が眩み、しばらく何も見えなかった。やがて、ゆっくりと焦点が合っていく。スマートフォンの液晶画面に、写し出されたばかりの俺の顔。
そこにいたのは、紛れもなく俺だった。
ただ、その口元には、耳まで裂けんばかりの満面の笑みが、深く、深く刻み込まれていた。二度と、色褪せることのない笑顔が。